「鷲皇帝、カルロス五世」
有吉 俊二 著
近代文藝社
神聖ローマ帝国皇帝カール5世の評伝である本書は、
著者が語るとおり、まさしく「大河ドラマ風」の歴史小説のようである。
スペイン研究者である著者は、スペイン語の「歴史(ヒストリア)」は「物語」の意味も持つことから、物語風のスタイルをとったと説明しているが、これまで皇帝について書かれた評伝にはない、新鮮な感覚だった。
皇帝と主要人物との会話のやり取りで特に印象的だったのは、
弟(オーストリア大公フェルディナント)と妹(ネーデルラント総督マリア)とのものである。
領内に課題が発生する度に連携を取り合い、対応策を検討している姿を見ていると、
“ハプスブルク家の帝国”とは、まさにこれら兄弟(と、その子供達)による
「偉大なる家族経営」であったことを再認識させられる。
無論、この時代に限らず、ハプスブルク家の家族経営主義は代々の伝統なのだが。
また、本書では皇帝の生涯が四季に準えて語られている。
即ち、誕生~14歳までを「フランドルの春」の章とし、
1515年に15歳でブルゴーニュ公に即位して君主としての人生を歩み始めてから、
1558年に皇帝を譲位した後に隠遁先で亡くなるまでを「カルロスの春・夏・秋・冬」
として構成しているのだが、この表現は彼の人生を表すのに非常に適していると思う。
青年期にイタリア戦争で覇権を確立し、
欧州の最高権力者としてローマ教皇からの戴冠を実現したものの、
その後は帝国内の新教派の動きを封じ込めることが出来ず、
カトリック以外の信仰を認める妥協を強いられた末に譲位することになるのである。