「カール5世とハプスブルク帝国」
ジョゼフ・ペレ著/塚本哲也監修/遠藤ゆかり訳
創元社 「知の再発見」双書105
カルロス皇帝の生涯、治世を知る入門書。
「知の再発見」双書シリーズに特徴的な、豊富な図版を使っての解説が、
見ているだけでも楽しいです。
原題「Charles-Quint, Empereur des deux Mondes.」:
「シャルル・カン(フランスでのカルロスの呼び名)、2つの世界の皇帝」
が示すとおり、新世界(アメリカ)と旧世界(ヨーロッパ)を凌駕する、
「太陽の没することなき世界帝国」の統治者としてのカルロスの姿を紹介
しており、とくに彼の時代のアメリカ植民地政策にページが割かれている
のが、他の著作にない特長と言えるでしょう。
著者がスペイン、ラテン・アメリカ文明の研究家ということもあって、
スペイン王国の治世と新大陸植民地政策に力が入っている本書。
「皇帝」としての彼のクライマックスである、イタリア戦争における
フランス王国との争い、ドイツにおけるプロテスタント勢力との対立
などは、非常にあっさりと書かれています。
「知の再発見」双書シリーズはもともとページ数も限られているので、
彼の複雑で多岐にわたる治世を紹介するには仕方がないのでしょう。
興味深いのは、巻末の資料編。
同時代の人々が残した、カルロス皇帝の人となりを記した書簡が紹介
されています。他国の外交官や、親睦のあった芸術家、そして身内の
手紙など、それぞれの立場からときに敬愛を込めて、または批判的に
書かれており、皇帝の「姿」を伺い知ることができるのです。
この記事にトラックバックする