シェーブル侯爵ギョーム・ド・クロワ（1458−1521）
カルロス皇帝の少年時代に多大なる影響を及ぼした侍従長。
カルロスのスペイン統治初期において、フランドル宮廷出身の実力者として大きな力を振るい、スペイン貴族たちをして、「カルロス王はシェーブル侯の傀儡である」と言わしめた。１５２０年に勃発した、「コムネーロスの乱」発生の要因の一つとなった人物。
クロワ家はシメイ（現在のベルギー南部ワロン地域（フランス語圏）エノー州の都市）領主として、代々ブルゴーニュ公に仕えた名門貴族です。ギョームの父フィリップは、ときのブルゴーニュ公シャルル・テメレールが戦死したナンシーの戦いにも参加しており、戦後、マリー女公とオーストリア大公マクシミリアンの結婚の実現に尽力する等、宮廷の要職にありました。
１４５８年にフィリップの長男として生まれたギョームは、２０代のうちに父から領内の統治権を譲り受け、公国の宮廷で頭角を現していきます。フランドル地方の支配者がブルゴーニュ家からハプスブルク家に移って間もなくは、それに抵抗する貴族達の動きがまだ不穏な状態にありました。彼はその中にあって、マクシミリアンの元に仕えており、１４８９年に起きたブルゴーニュ内乱の際には、反乱の中心人物であったクレーフェ公フィリップの説得にあたるメンバーの一人となっていたようです。この功績が認められてか、彼は１４９１年にブルゴーニュ公国伝統の「金羊毛騎士団」に叙任されています。
１４９４年からはマクシミリアンの息子フィリップの家臣として、彼は宮廷の主要な人物となり、さらにはフィリップが夭折してしまったために、君主不在の公国をまとめ上げる中心人物となっていきました。また同時に彼は、幼いカルロスの教育係も務めることとなったのです。アンリ・ラペール著「カール５世」において、著者は皇帝の少年時代に影響を与えた３人の人物として、叔母マルグリット、家庭教師アドリアン司教、そして、侍従長シェーブル侯を挙げています。ただし、彼はフランス寄りの政策をとる人物であったので、同じくカルロスの養育のためにやってきた、イングランド寄りの政策をとるマルグリットとはしばしば対立の関係にあったようです。
カルロスが１５歳になり、彼女が後見人から退くと、いよいよシェーブル侯の権勢は勢いを増しました。さらにスペイン統治が始まると、彼は自らの関係者で要職を次々独占しました。中でも、それまで王国の摂政を務めていたシスネロス枢機卿が持っていたトレド大司教の座を、まだ１０代の自分の甥に与えたことは、スペイン貴族達の反感を買うことになりました。
スペイン貴族達はシェーブル侯を通さずにはカルロスとは面会も意見を通すこともできず、また、当時まだ彼が引きこもりがちな性格だった上にスペイン語を話せなかったために、国王は単なる操り人形に過ぎないと思われていたのでした。やがて、カルロスが皇帝即位のためスペインを出国することが明らかになると、多額の費用捻出と国政放棄と受取って反発した者達が蜂起し、市民を巻き込む動乱に発展したのです。
反乱の標的となったギョーム当人はこの時すでにカルロスとともに出国して無事でした。しかし、この頃からカルロスは次第に自らの判断で国政に指示を出すようになっていきます。アーヘンのローマ王戴冠式ののちに開催されたウォルムス帝国議会開催中の１５２１年、対フランス政策を巡って皇帝と意見が合わなかった彼は、失意のうちにこの世を去っています。君主の側近として力を誇った「老獪なる」侍従長は６３年の生涯に幕を閉じました。一方、帝国統治に彼の影響が及ぶことを恐れたドイツ諸侯により毒殺されたとも言われているようです。
今回カルロス周辺の人物に光を当てていく目的で、少年時代の重要人物であるシェーブル侯について調べることに挑戦しました。彼については日本語で入手できる資料（といってもどれ程も手に入れてませんが！）にはあまり情報が無いので、ウィキペディア英語版などを使っています。やはり、カルロスのことを今後調べていくためには、海外の資料にあたらなければダメだと改めて思いました。…思いました、が！、こりゃあ、大変だ！
ちなみにクロワ家の末裔は今でもヨーロッパに貴族としているようです。
